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(4)空中戦法/芸術性とパイオニア精神

「自在流」を生んだ背景

 盤の中央には飛車、角、桂馬が飛び交い、今にも敵陣に襲い掛からんとしている。「なんと恐ろしい将棋だろう」―。見たことのない攻めを受けた中原誠は、盤上と対局者・内藤國雄を交互に見つめながら、低くうなった。

 一九六九年十二月、愛知県蒲郡市の旅館・銀波荘で行われた棋聖戦七番勝負の第二局。内藤は自陣の守りを最小限にとどめ、序盤から飛車、角が積極的に攻める「空中戦法」で勝利。この勢いで中原から棋聖位を奪取し、初のタイトルを獲得する。

 中原は「序盤で一手間違えば、直ちに負けにつながるほど激しい将棋。まねできる人はいなかった」と振り返る。

 「空中戦法」をはじめ、それまでの定跡にはない、内藤の華麗な攻めは「自在流」と呼ばれ、ファンを魅了している。その一方、創造性や芸術性を重視し、勝負へのこだわりがやや弱い棋士、との評価がある。

 「序盤がいつも同じ展開では、新聞を読むファンに申し訳ない。初めからドキドキ、ハラハラさせたい」―。本人もサービス精神を強調するが、長年、内藤将棋の研究を重ねてきたある棋士は、こうみる。

 「独特の美学があり、何が何でも勝ってやろうとする姿勢を格好悪いと感じているのは確かだが、それだけではない。直感や瞬時の読みに自信があるだけに、相手の定跡研究を逆手に取り、意図的に定跡外の形に持ち込んで勝つ。創造性と勝利への執念の両面が結実したのが内藤将棋だ」

 内藤の対局史の中で、十六歳年上の故・大山康晴、八歳下の中原という、両巨頭への挑戦は、最大の柱だった。ともに永世名人の資格を持つ二人は、攻守のバランスに優れた強敵だった。

 通算の対戦成績は、対大山が十八勝五十敗、対中原は二十四勝四十七敗。しかし大きな対局になるほど、内藤は創意工夫を凝らした戦術を見せた。七二年の王位戦では、ついに大山を下し、十二年間も保持されていたタイトルを奪取。これまでに計四期のタイトルを獲得している。

 内藤将棋は単なる奇襲ではない。現在の最新戦法の一つ「後手8五飛」は、「空中戦法」を原形に発展させたものだ。

 「芸術家であるだけでなく、勇気あるパイオニア」―。中原は内藤の真価を、こうたたえる。(敬称略)



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